なにより一番足りないのは時間 『さかあがりハリケーン』

さて前回少し思わせぶりなことを書きましたが『さかあがりハリケーン』をコンプリートしました。
正直なところ、これを「佳作未満」と評してはほとんどのエロゲが佳作未満になってしまうような気がしないでもないですし、客観的には70点(オレ的にはこれが佳作ライン)くらいの評価はつけるべきだと思うんですが、主観的には「もっとやれただろう」という思いが拭えず65点くらいしかつけたくない。そんな非常に惜しい、もったいない作品でした。
1周目が終わったときに知人に感想を聞かれて「欽ちゃんの仮装大賞で14点で止まる仮装ってあるじゃん。欽ちゃんがなんか一言『でもこの子たちがんばってたよ?』とか言うと誰かがもう1点つけて合格ラインに乗るようなやつ。あれ」と答えたんですが、手前味噌ながらコンプリートした今でもいい喩えだったなと思ってます(^^;
既に総評めいたものを書いてしまったような気もしますが、まあそんなわけで『さかハリ』の感想文です。


ちなみに知らない人のために解説しておくとストーリー的にはこんな感じ。

その行動力で、周囲を巻き込んで状況を一変させる事から、
『台風』と呼ばれる問題児、主人公・皆川巧。

彼は数々の問題行動から、山奥にある神道学科の学校を追放され、
地元の武月学園に、幼なじみのゆかりの監視付きで編入することになった。
そして彼は、下見に行った放課後の教室で、ひとりの女生徒と出会う。

後日、正式に学園へと編入した巧。
そこで待っていたのは、ありがちな例の彼女との再会と、
『クラス委員長』というおおよそ巧には相応しくない役職、
そして生徒の意見や要望を聞き入れる、クラスの目安箱の管理だった。

誰も手を付けなかったその目安箱を、持ち前の行動力と面白がりの性格で
次々とこなし、徐々に周囲に変化を与えていく巧。
そんな彼を待っていたのは、漠然とした、でも彼の好奇心をくすぐる、
目安箱に新たに入れられた、ある一つの『お願い』だった。

それを機に、退屈だった学園生活は、
少しずつ変化へ向けて動き出していく――。
(メーカー公式より)

別に学園生活を楽しくするはずが能力者バトルになったりはしないのでこれに対して特に補足する点はありません(笑)。
んで、システムとかについてうだうだ書いても仕方ないとゆーか戯画標準なんで普通に「何の文句もありません。以上」で終わっちゃうんでさっさと自分の感想に入らせていただきます。


なんとゆーかですね、『さかハリ』って構成要素のそれぞれを見れば悪くないと思うんですよ。
テキストは読みやすく、キャラクターも立っていますし、主人公たちの会話も決してつまらなくない。むしろ余計な地の文を排除してテンポを上げていたりセンスは感じます。イベントの作り方や伏線の張り方だって1個1個を見たら結構よくできてると思いました。
特にパッケージヒロインの奈都希、物語の導入となる涼、それと対になるゆかりの3人については構成的にもきちんと全体の流れを組んでいるんです。
萌え方面についても控えめだけどわかりやすく好意を向けてくる柚、主人公に元気をくれるハル、頑張るドジっぷりにちょっと応援したくなる奈都希、クール世話焼きな涼、わかりやすく嫉妬するゆかりとベタながら可愛らしく描けていると思いますし。ちなみに幼なじみ至上主義の自分は当然のように「ベタだなぁ」と苦笑しながらもゆかり教育の犠牲者となりました(笑)。
でも、それでもプレイし終えると物足りません。


原因としては大きく2つあると思われます。
まず第一にイベント数そのものが少ないということ。
誰もが指摘することだと思われるイベントCGの少なさも物足りない原因なのは間違いないです。ヒロインが5人で差分除いて62枚というのは最近の傾向としてはあまりにも少なくて、ヒロインが5人だったら80枚くらいは欲しかったところ。
ですが、それは真の問題ではなくて、より大きな問題はそれだけしかCGがないにも関わらずプレイしていると案外「あのシーンに絵がないのは残念だった」とならないことにあります。それはつまりイベント絵を用意するに足るだけの出来事が起きていないことに他なりません。実際、今のシナリオのまま絵を追加するとしたらキスシーンばっかり増えることになりそうです(ぉ


で、この「イベント絵を用意するネタがない」というのが第二の原因になるわけですが、せっかく用意されているイベントに関しても「イベントを盛り上げよう」という観点が致命的に欠けているように思われました。
共通ルートについてはすんなり決まると思われた主人公たちの思惑が否定されたり、1個問題を解決したらまた次の問題が立ちふさがったりとまだ紆余曲折があったのですが、個別ルートに入ってからは問題が発生・発覚してもほとんどのものは流れるように解決してしまってカタルシスがないのが……(´Д`;
ひどい言い方になってしまいますが、結局共通ルートラストでゲーム開始直後から主人公たちが実現させようと頑張ってきた学園祭の開催が学園に承認されるシーンを超える盛り上がりはどのシナリオにも見られなかった。それが自分の本音です。
基本的に無駄に長いシナリオはご勘弁なのですが、ヒロイン一人分のシナリオだけを抜き出したら7割にも達しようかという共通ルートとのバランスを考えるならもう少し個別ルートにも注力すべきだったかと。
例えば共通ルートが終わったらほとんど忘れられちゃった「学園を楽しくする」という主人公本来のテーマの第2弾をもうひとつの軸に置くとか、ね。


そういう「もう少し完成度が上げられたのでは?」と思わせる点は演出面にもあります。
この作品は最近の戯画の常でイベント回想時にチェックできる小さなイベントがいくつも数珠つなぎになってシナリオを構成しています。そしてそのイベントにはそれぞれ固有のタイトルが用意されています。
そこまではいいんです。
いいんです……が、なんでいちいちタイトルとエンドタイトルを出すかなあ!(´Д`;
短いところだと「○○」とタイトルが出て、主人公たちが会話をして、「○○END」と出るまでに10分にも満たなかったりするのですが、それを頻繁に見せられるとかなりイラッと来ます。境目に『この青空に約束を―』みたいに無音のアイキャッチでも入れておけばよかったのに……。
また、これまた各所で指摘されていることと思いますが、涼・ゆかり間には「涼→ゆかり」の順でクリアしないとクライマックスがピンぼけになるという構成上のボトルネックがあるにも関わらずクリア順制御がないのは不思議でなりません。
「涼→ゆかり」だけ制御かけるのはちょっと…ということなら、「柚orハル」→「奈都希or涼」→「ゆかり」くらいの制御をかけておけば良かったと思うんですけどね〜。……まあ今度これやっちゃうと、あくまで涼ルートの内容がゆかりクライマックスの前提になってるから制御が必要なだけで、ゆかりがストーリー全体の鍵になっているわけでもないので、これはこれで違和感あるんですが(^^;


イベント絵・CV・BGMなどはいずれも水準をクリアしていると思いますし、先述したように小さな単位で見れば間違いなく素材は悪くないんです。でも全体で見ると明らかに練り込みが足りない。材料はそれなりのものを揃えたのにあんまり煮込まずに出しちゃった煮込み料理っつーか後半で露骨に失速するあたりリアルに時間が足りてない印象が。
August Dojin Data Baseさんがまとめた2008年 作品別売り上げランキングで張り合っている他の作品と比較すると、開発期間が短すぎると思うんですよねぇ。まあ、これは『オトメクライシス』が出た後に本格的にプロジェクトが動き始めたと仮定して、の話ですが11月末に出るのだって8ヶ月で決して長くないのに当初は9月に出るはずだったわけですから6ヶ月プランですよ?
そういう事実を踏まえるともっと時間があれば、自分の挙げた残念だったポイントも払拭されて佳作以上になれたのかも、という風には思ってしまいます。
ifを言ってもしかたないですが、現実解が見えるだけに残念な感が拭えないのでした、まる
せめてバルドの半分くらい開発期間があれば良かったのにね、とは言いますまい(マテ