懐古主義と言われようと『痕』が良作な件

ちょっと前ですが『痕』のリメイク版をコンプリートしました。
『痕』といえば古株のエロゲユーザーには説明の必要すらない傑作中の傑作。追加シナリオに追加ボイスにとずいぶん危ない橋を渡るなぁと思いつつ生涯4本目の『痕』*1を購入したMU-6さん。内心ガクブルしながらプレイしましたですよ。


なにしろ傑作中の傑作とはいえ、発売は1996年。既に13年の年月が流れています。
MU-6にとっては実際に鶴来屋のモチーフになった加賀屋に泊まりに行くくらい思い入れがある作品ですが、13年という時間は斬新な物を陳腐化させ、思い出を美化するに十分な時間です。
もし今プレイしたらなんてことなかったら……、でも変に手を入れて欲しくないし……、そんな複雑な心境で遊び始めた気がします。


が、結論から言ってしまえば杞憂でした。
本編は今プレイしても文句なしに面白い!
特に変なキャラ付けがされているわけでもないのにしっかりと立った柏木四姉妹のキャラクターは今プレイしても十分に魅力的。主人公の耕一さんもバカではなく、完璧超人でもないバランスのいいキャラクターで感情移入もしやすいです。
シナリオについては今の感覚で見ると(もしかすると当時見ても)初音シナリオや楓シナリオは性急な印象が否めませんが、そのかわりに非常にテンポ良く次から次に起こる展開に引きつけられます。
この辺は仮に今、新作として作ったらだいぶ変わりそうですね。事件が起こるまでの日常描写がかなり長くなりそうです。
従姉妹というある程度近しい関係が構築できているヒロインだから導入が短めでも問題ない……というのは考えすぎで実際のところは製作期間をそんなに長く取れたわけじゃないからなんだろうな(ぉ
でもそれが結果として奏功しているわけですから世の中何がプラスに働くかわからんですね。
っていうか性急とかどうでもいい。エディフェルのCGがごっつい美しく仕上がっていた時点でどうでもいい(マテ


不安といえばそれなり以上に思い入れがある作品なのでCVがどう作用するかも不安だったのですが、それも結局のところ杞憂でした。
長瀬警部だけはちょっと自分のイメージとは違いましたが柳川さんは邪王炎殺黒竜波を撃ちそうなイケメンボイスでガチホモ兄貴も満足でしたし、四姉妹もなかなかグッド。
サンプルボイスを聞いた時は「どうだろ、これは」とか思っていたのですが、実際にプレイしてみたら初音ちゃんにすっかりやられてしまいました。水橋キ○ガイの友人が「やつの妹はガチ」と言い続けていた意味が…ようやく…わかったよ……。
ボイス関係で難を挙げるとすると陵辱シーンで柳川の声が入ってしまっているために、犯人=耕一さんかもしれないという可能性が初見プレイヤーから見てもゼロになってしまっていることでしょうか。あそこは演出的に耕一さんが声を聞いて「別人だ!」と確信するまではぼかしておいて欲しかったです。


とまあ、興味を持つような人はとっくにやってるんでしょうが、万が一、いや、億が一、未プレイの方がいらっしゃったら是非に、是非にやっていただきたいですな!
ちなみにいないとは思いますが、「なんか『月姫』とかと少し雰囲気似てるよね」とか言ったら刺すのでよろしくお願いします(マテ


――ここまでで終われば良かったんですけど、追加部分は概ね微妙でぐんにょりでした。


いや〜、追加シナリオは最初から諦めてたからいいんだけど(マテ)、他の部分の追記・修正もあまり有効に機能していたとは思えないんですよね。
時流に合わせて携帯電話関係の記述が増えていたのはいいと思いますが、だとすると千鶴さんと一戦交えたあとに携帯電話に何件も着信が入っていないのは不自然でしょうし、梓のところにかおりちゃんが遊びに来ている最中に突然ふらふらと出て行く耕一さんに対して周りがそれほど気を払わないのはおかしいですし……。修正した意味自体が薄らいでいるように思います。
中でも自分としてスッキリしなかったのは冒頭、悪夢を見て精神的に追い詰められる男が心の中で叫ぶ「朝! 朝!」の回数が減っていること。
おそらくはしつこいと判断してのことでしょうが……、いいんだよ、全体のテンポがいい中であそこだけしつこいまでに同じフレーズが繰り返されるからこそ狂気一歩手前の必死さが出るんだから! なんでそんなことがわかんないかなぁ……。
細かいところで文章が修正されていて全体としては読みやすく、元のテイストを崩さずでまとまってるだけに、たまに出現する微妙なところが逆に引っかかってしまうデスヨ(ぉ


追加シナリオについてはリニューアル版で追加された過去編でさえ微妙だと感じた*2自分なので到底受け入れられまいと思っていたものの、懸念していたよりはアリだったかなというのが正直なところ。
完全にSSと割り切ってしまえば許容範囲ですし、それなりに楽しめると思います。千鶴さんがほぼギャグキャラ化しているところを見てもSSと考えるべきで、なんというか懐かしのDNMLで作った二次創作を思い出したとか思い出さなかったとか(^^;
しかしながら新キャラの六花は「謎のメイドさん」という立ち位置自体も作品世界の中で明らかに浮いていましたし、女のエルクゥなのに暴走するという設定も作中のその他の設定と矛盾するものになっていて作り込み不足……というよりは無理やり感を感じずにはいられませんでした。後者はともかく前者は別に行き倒れの女の子でも良かったんじゃないかという気が……(^^;
最後までやっても六花の中の「もう一人」がどんな存在なのか皆目わからんしな。


そんなわけで存在自体が誰得感もある追加シナリオではあるものの、無理やりな追加要素に全力で対応したライターさんの頑張りは評価したいところです。
ほぼ間違いなくオレみたいな古株の人に文句言われるってわかってて取り組んだ勇気には敬意を表するッ!
以上、長々と書いた割に最終的には「未プレイの人はやるべし、プレイ済みの人は……まあ、その、ボイスが聞きたければやってもいいんじゃね?」という極めてありきたりなものになりつつ感想おしまい。
ちょっと前に予告した自由研究でたぶんもう1回、この作品をネタにするかと思います。と予告らしきものをしつつ今日はこの辺で。

*1:Windows版、新装パッケージ版、2002年のリニューアル版、今回

*2:ヨークとエルクゥの設定が明かされたのはいいけど、前世設定を全否定しちゃったのがしょんぼりですよね〜