エロゲのファンブックを買う人は原作ユーザーの何割なのか?

August Dojin Data Baseさんで書かれていたのですがエロゲのファンブックを買ったことのある人は64%にも及ぶそうです。
これを見て心底驚きました。まさかエロゲのファンブック(以下「VFB」)というものがそんなにメジャーなシロモノだとは思っていなかったので……。
よく読むと「テックジャイアンのアンケートに答えた人の」と記事には書いてあって、うまい見出しの付け方だなぁと感心するわけですが、それを差し引いても結構驚くべき数字です。だって自分の周りのエロゲユーザーに「1年に1冊以上VFB買ってる?」と聞いて6割以上が「YES」って返すとは思えないもんなぁ。まあ自分の周りのユーザーって半ば引退しているようなユーザーが多いから参考にならないのかもだけど(^^;
テックジャイアンは通好みの雑誌という印象がなかったのでライトユーザーによって買い支えられてるものだと思ってたんですが、さすがにアンケートまで答えるような人だとかなりコアなユーザーだということなのでしょうかね。
その割には俺ゲーグランプリの結果は不思議なのが多いけどな!(暴言)
広告露出と連携しているかのような結果だから、てっきり露出度が人気に比例するライトユーザーがメイン読者だと思ってましたことよ?(暴言その2)


まあ暴言はさておき、実際世間様ではどの程度こういうもの買われているんでしょうかね?
自分の印象ではよほど気に入ったゲームでもなければ買わないんじゃないかと思うんですけど。
たとえばさっき出てきた60%という数字がそのまま適用されるということはないと断言していいでしょう。
(あの数字は「1年で1冊以上買った人の数」だというのは承知の上ですよ、念のため)
母数も信者率も高いと思われるメジャー級タイトル――たとえば去年出た『リトルバスターズ!』のVFBや今度出る『Fate』のVFBが10万部近く売れるかと言われればそれは考えにくいですもんね(笑)。
でもそれも無理からぬところです。
だって、発売日に新品買っても特典差っ引いたら7000円くらいで買えるゲームのグッズですよ? それに3000円近く払おうっていうのはよっぽど好きか、さもなくばサイフの紐が緩いかのどっちかですわな。
いろいろな付加価値があればそれもいいんでしょうけど、具体例を挙げるのは避けますが中には有りものの素材を全部載せただけの手抜き感アリアリのもありますしね……(^^; そういうの買っちゃったらもう目も当てられません。


少し話は逸れましたが実際どれくらい売れるものなんでしょうか? というよりどれくらい売れると想定すればあれくらいの価格で本を作れるのでしょうか?
そこで以下のケースを前提にシミュレーションを行ってみます。

  • 128ページ・表紙&SSはオリジナルスタッフの書き下ろし
  • 定価2300円(税抜)
  • 原作ゲームの販売本数:2万本

これらの数字についてはある程度妥当感があるんじゃないかと思います。
なかったら、自分が不勉強ということでごめんなさいm(_ _)m


こうした本を出版社の編集さんが直接一から十まで製作することもあるのでしょうが、奥付を見ればわかるようにほとんどのVFBは何らかの編集プロダクションが製作を請け負っています。
原稿料の相場はよく知りませんが、全部均してページあたり15,000円〜20,000円くらいですかね? そう仮定すると版元から編プロに流れるお金は200〜250万円程度になります。
次に製作にどの程度の時間を要するかを考えてみます。
128ページであれば月刊雑誌よりページ数は少ないくらいです。が、広告でページを埋められるわけでもなく、多くの場合、雑誌よりも関わっているスタッフが少ないVFBですからここでは1冊作るのに2ヶ月かかるとしておきます。
なぜここでそういうことを考えたのかというと、固定費として版元の編集さんの人件費も考えておく必要があるためです。フルタイムで1冊のVFBに関わるとは考えにくいですので、どの程度を妥当とするかは微妙ですが……平均して勤務時間の4分の1ほどを費やしているとしましょう。
給料を30万円として会社が1人を雇うのにかかるコストはざっくりその倍。
30×2×2÷4=30万円をここでは計上しておきます。厳密には表紙やSSなどの書き下ろしに対する謝礼、インタビュー謝礼などなど色々他にも計上すべき点があるのかもしれませんが、面倒なのでその辺は全部その他扱いにして省きます(ぉぃ


これで必要な情報はある程度揃いました。
こちらのサイトによれば人件費は定価に対して15%程度に抑えることが望ましいのだそうです。ここでは版元が優れたコスト感覚を持っているというストーリーで素直に逆算してみましょう。
230万〜280万÷0.15=1530万〜1860万
これがこの本の総売上ということになりますので定価で割り戻すと

6700部〜8000部

という数字が出てきます。元のゲームの販売本数が2万本ですからつまり

VFBを買うと思われるのは原作ユーザーの33.5%〜40%

という結論が出ました! パレートの法則によれば売上の8割は2割の顧客が生み出すそうですから、ここの数字は20%前後が出ると美しいのですが、その辺はエロゲがそもそも嗜好品なので閾値が低いということなのかもしれませんね。なかなか興味深い結果が出ました。


……と、こう締めるといかにもそれっぽいのですが、この数字はいろんな仮定に基づくと同時に算出できる数字も「出版社が期待するVFB購入率」でしかないので実際の購入率は全然違うかもしれません(ぉぃ
仮置きした数字の精度もう〜ん、どうだろ。実際には版元の編集さんの分の人件費がもっと少ない(関わってる時間が短いとかね)/全部一括で下請けに出すかわりにページ単価がもう少し安い/あるいは逆に人件費がコストに占める割合がもっと高いなどの理由で期待購入率はもう少し低く置いているのではないか、というような気がします。
とはいえ、期待購入率の数値としては大きく外れていないと思いますので、購入率がこの数字を上回る可能性はほぼゼロと言い切っていいでしょう(なかなかこの手の本は増刷かかりませんし)。つか逆にこれより高い数値を見積もってるんだったら、それは版元の読みが甘すぎるかと(^^;
以上、ちょっと前に流行ったフェルミ推定っぽいエントリでした。なんかインテリっぽいよね、こういうの書くと! 数少ない(というかいるのか?)女性読者の人はMU-6さんの意外な知性派っぷりに惚れればいいと思うな。