エロゲのワイド化が抱えるいくつかの問題

もう周回遅れもいいところの話題ですけど、『Rewrite』がワイド対応するっちゅーことでエロゲのワイド化についていくつかのブログさんで盛り上がっていたことがありました。

その辺の話を読みつつ自分でもぼんやりと考えて書いたメモがデスクトップの肥やしになっていたのでアップしておきます。……ほとんど書き上げてからアップするまでに2週間経ってしまったので非常に今さらだけど気にしない気にしない(ぉ


で、細かいことをごちゃごちゃ書く前に結論を先に書いてしまうと

少なくともここ1〜2年でエロゲのCGがワイド化することはない

というのがオレの意見です。ただし「ワイドスクリーン上でフルスクリーン表示してもアスペクト比が崩れないようにソフト側で対応する」という意味でのワイド対応はこの限りにあらず。これについては早急に対応するべきですし、心あるメーカーならばすぐ対応することと思います。
自分なりに考える理由の中にはラルフさんが挙げている理由と重なるものもあるんですけど、そこはご容赦ください。
あ、それと書き始める前にきちんと定義しておかないといけないんですが以下の文章で「大きく映せない」とか「縦幅が狭い」というのはあくまで相対的なものと認識ください。ほぼ同程度のインチ数のスクエアディスプレイとワイドディスプレイを比較していると考えてもらえるとわかりやすいでしょうか。
ここで「現実にはインチサイズの大型化と並行してワイド化が進むはずだ!」とか「新しいワイドディスプレイの方が高画素対応しているんだから、情報量が多いはずだ!」みたいなことを言い出すとキリがないので。……とゆーか後者に対してはワイド化というよりもHD化・高解像度化というカテゴリで語るべきことですからね〜。
と前置き&予防線を張ったところで本題でござる。これがエロゲのワイド化が抱える問題だっ!

キャラクターを大きく映せない!

純愛・陵辱問わずおおよそほとんど全てのエロゲイベントCGにおいて意識的に、あるいは無意識に共通で配慮しているポイントというのが2つあります。

  • キャラクターを大きく見せる
  • 画面の下方向に重要なものは置かない

試しに自分の持っているゲームで確かめてみてください。まずこの2点は気にしているはずです。


これはもう当たり前の話で、エロゲは美少女を売ってナンボの商売ですからその絵をデカく見せないとインパクトに欠けるというのが第一に挙げられます。
ぶっちゃけ雑誌なり店頭で見た時にキャラ絵小さいと目立たないですからね〜。
MU-6さんのようにオッサン化してくるとキャラ小さめのCGでも「構図がいい」とか「空間を活かしたCGだ」とか通ぶったセリフを吐いて評価したりするんですが、まあそういうお客さんは少ないわけで。「画面埋めろ!」は絵描きさんがただ一つ共有する真の正義です。
画面の下方向に重要なものを置かないというのはメッセージウィンドウとCG表示部が完全に分離しているゲームなら別にそれほど気にしなくてもいいですが、CG表示部にウィンドウを重ねるゲームの場合はウィンドウで潰される部分に重要なものを置かないのは絶対のルールです。仮にウィンドウが半透明だろうと透明だろうとそれは一緒。
たまについうっかりな感じのもありますけど(笑)。


さて、これらを踏まえるとワイド化した際に生じる困ったことが1つ見えてきます。
基本的に人間は縦長のデザインになっているわけです。
ここでワイド化すると従来の4:3のアスペクト比よりも縦幅が狭くなります(少なくとも近いインチ数の通常ディスプレイとワイドディスプレイだったらワイドの方が縦幅狭いのはいいですよね?)。
加えてメッセージウィンドウがあったら重要なものを置ける縦スペースはさらに狭くなるわけで、そこに縦長の絵を置くと今度は横の空間が空きまくるんですよね(^^;
これは作り手的にもユーザー的にもぐんにょりではないでしょうか?
横たわるシーンや斜め構図を使えばこの問題はクリアできますが、まさか全部が全部斜め構図を使うわけにもいきませんので悩ましいところです。
また純愛ゲーだとたまにあるキス顔のアップ。
(『てとてトライオン!』より鈴姫さん)
こーゆーの、キャラの顔で画面の多くを埋められるんで手間の割に見栄えがするCGなんですけどワイド化するとこういうのも今よりパンチが弱くなるかもしれませんね。画面に占めるキャラ絵の割合をどう維持するか悩みそうです。
顔を同じサイズで置こうと思うと脇の背景を描いてあげなきゃいけないし。作業増えてうまみ減りますな。


自分が予想するに仮に全部のエロゲがワイド化したら今よりも部分拡大・スクロール系の演出が増えるんじゃないかと。とりあえず拡大でインパクト与えておいて全体像、もしくはスクロールして縦方向を見せてあげる、みたいな。

キャラをそんなにたくさん出せない!

ラルフさんも指摘されていることですが、大勢のキャラクターが同時に出てくるようなテキストを書けるライターさんは稀有です。基本的にマンツーマンでの会話がベースになっている世界ですからね。
これはエロゲの歴史がナンパゲーに始まっていることに起因するんじゃないか、とか大勢のキャラを表示したり大量のテキストを用意するのが不可能だった時代の名残なんじゃないか、という妄想もしたりしますけどまあそれはどうでもいいです。
画面を埋めないとどうしても寂しい印象を与えてしまうという状況下では、複数のキャラクターを配置する場面を多くしたくなるのが自然でしょう。立ち絵として表示されている以上、エキストラみたいに空気扱いというわけにはいかないけれど、いちいち大勢を喋らせるのはキツい……というのが課題になるかと思います。
あと、シナリオライティング以外の演出も面倒は増えますね。
例えば今までだと1人分の立ち絵切替スクリプトを書けばよかったのが3人表示になったら単純計算で3倍の手間かかるわけですし。

テキストの書き方から変えないと厳しいんじゃね?

全部が全部そうというわけではありませんが、エロゲのテキストウィンドウの仕様って大体こんなところでしょうか。

1行の文字数は20〜40字程度
1ページの行数は3〜5行

この辺りの数字については比較的妥当だと感じていただけるのではないかと思いますが、結局縦幅が狭くなることと最初に挙げた「下の方に重要な絵は置けない」という要素が組み合わさると縦の行数を確保するのが厳しくなるというのはわかっていただけるでしょう。3行+名前表記1行くらいはまだしも5行+1行だと割と本気でキツくなってきそうです(^^;
これについては対処策がいくつか簡単に思いつきます。

  • 文字を小さくする
  • テキスト量を削減する
  • テキストウィンドウを横長に変える
  • メッセージウィンドウの位置を変える

これくらいは誰にでもすぐに思いつくでしょうが、これらは多少の問題があることにも気づくはずです。いちいち解説するのも面倒だし、多分に主観的なものなんで端折りますけど例えば「文字が見づらくなる」とか「情報量が減る」などなど。
いずれにせよ程度の差こそあれテキストの取扱いは見直す必要が出てくると思います。
そもそもこれはどうしても主観が入ってしまいますが、映画の字幕が長々と表示されないように、ことビジュアルと一緒に見る限りにおいては横に長いテキストはあまり向いていないように思うんですよねぇ。
横に長くなりにくく、かつ立ち絵の変化と一緒に眺めさせたいセリフと文章量が多い地の文を別のウィンドウで処理するニトロプラス方式が案外ベストな回答なのかも。あるいは地の文オールカットでFFDとか。
私はまだワイド対応のゲームってやってないんですけど実際にはどう処理してるんですかね?


――とまあ、このような事情からすぐにワイド化が進むとは思えないわけです。対応しようと思えばできるでしょうけど、いろいろと面倒くさいから先送りにされるかなと。いずれもエロゲの根本に関わる問題ですので、抜本的に考え方を変えるか人材を変えるかしないと難しい部分もあるでしょう(ぉ
……え? 「面倒だから」は理由になってない?
ん〜、まあそうかもしれませんけど工数が増大するのに加えて、ここ10年くらいの方法論が使えない中で一歩踏み出すのはなかなか勇気がいるものですよ。エロゲの値段が変わらない傾向が今後も続くと予想する限りにおいては工数増えても利益減るだけですし。


ま、思いつくままに並べただけですけどこんな感じです。
抜きゲーの方が横たわる構図や斜め構図を使いやすい分だけ(寝てるシーンが多いから)ワイド化対応はしやすいかもしれませんが……まあ程度問題なのかな。
あとは技術論ではなくなるので先ほどの3項目には並べませんでしたが、もっとぶっちゃけた理由としてエロゲユーザーの中には非常に遅れた環境の人もいるというのもあります。
たまにハイエンドな環境を要求するゲームもありますけど基本的にはロースペックでも稼動するゲームが多いエロゲ市場は時々マジでありえないくらい古い環境でゲームやってる人、本当にいますからね…。
そういうユーザーは例外かもしれませんが、市場に新規投入される液晶がワイドになったとしても、ユーザーの環境として非ワイドが主流ならそっちに合わせるメーカーの方が多いだろうという話です。
こんなんがワイド対応するにあたって表面化してくる問題なのではないかと思いました、まる