俺たちに翼はないこともない

しばらく前になってしまいますが『俺たちに翼はない』をコンプリートしました。
最近はすっかりゲームを消化する数も減り、感想を書くことも減ってしまった自分ですが、プレイし始めたころに(その時点で世の中では大勢クリアしていたわけですけど)不思議に思っていたことがありました。
このゲーム、プレイした人の多くが「人を選ぶ」って言うんですよね。そのときの自分も「これは人を選ぶなぁ」と思ってましたので、まあそれは納得なんですが一方でErogame Scapeの評価なんかを見ると発売当初から今に至るまで非常に高い評価で安定しているわけですよ。つまり評価を見る限りでは全然人を選んでいないとも読み解けるわけです。
これがずーっと不思議だったんですよね。
まさかユーザーの多くが前世からの運命で選ばれた戦士というわけでもなし。だったら実は人を選ぶソフトじゃないんじゃないの? そんなことを思いながらプレイを進めていきました。
(以下平然とネタバレあるのでご注意ください)




――で、プレイし終わっての結論。
やってることはめちゃめちゃ直球じゃないですか、このゲーム。
「人を選ぶ」というのも決して間違いではなくて、何人かいる主人公のうちのひとり・伽楼羅編なんかは人によってはドン引きしてしまうだろうし、そもそも主人公が多重人格という作品の根幹をなす設定自体、好みが分かれるのは事実なので、そういう意味では人を選ぶのですが方法論こそ変化球だけど、その実やってることは超が付くほどストレートなお話でした。
早い話がこの作品ってそれぞれの事情でコミュニケーションが上手くいかない人たち(ヒロイン含む)が、ふとした出会いからちょっとだけ前に進めるという、そういう具合の話なわけで。
開始直後にいきなり中二病全開のファンタジー世界が出てきた時にはどうしたものかと思いましたけど、最後までやってみればどのシナリオも実はとってもオーソドックスな枠組みで語られていることに気付いたのでした。


とまあ、こんな中途半端な考察サイトみたいな戯れ言は置いておくとして――実際、ゲームの中で一番核になるメッセージは今回の雑記にも使ったセリフに集約されているのでそれ以上ガタガタ書くこともないしな――自分の感想は一言でいうと
面白かった! でもちょっと物足りなかった!
こんな感じ。


正直、こんなどうかしている設定を使っておきながら、きちんと最後まで面白く読ませてくれるわテーマ性まで消化してるわで王雀孫の技量には驚くよりほかないのですが、それでもこれだけの大作として見ると良作ではあるものの名作まではいかないかな〜というのがオレ的な感覚。
理由はもう完全に個人的な問題ですけど2点ほどありまして1点は悶絶するほど萌えたヒロインがいない(マテ
あともう1点は最終シナリオが最終シナリオとしてはもちろん、他と比しても明らかに弱いことでしょうか。
まあ前者は人それぞれっつーか「鳴が雪村に似すぎているのでせめてCVだけでも変えられなかったのか」とか「だからコーダインをクリアさせろとあれほどだな」とか「あれ? 美咲エンドが足りませんよ?」とかそういうことが言いたいだけなので脇に置いておくとして、問題は後者です。


現在発売中のVFBに収録されているインタビューを見ると明日香、京、日和子、鳴のエンディングを回収した後にオープンになる最終シナリオは別にトゥルーとかではなく、他と並列な扱い、強いて言えばファンサービスという衝撃的な事実が明らかになっていたりしますが、普通に考えたら最後まで隠されているシナリオだったら極めて重要度が高いとは思いますよね。
内容面も他と同等くらいの扱いならともかく主人公の人格が分割された経緯など重大な事実が明かされたりもしますし、その人格が統合されるシナリオでもあるので、見れば見るほどトゥルーっぽいというか、いわゆるKey型のメインヒロインを思わせるわけですよ。
なんだけど、この最終シナリオがどうにも物足りないんですよねえ……(´Д`;
統合された後の鷹志(便宜上「ぱねだくん」と記述)と周りの人々の絡みは素直に面白いんですよ。ぱねだくんに反発しながら時々鷹志の顔を出されると思わず頬を赤らめてしまう明日香とか最高ですよ。でもな〜、終盤になればなるほど弱く感じてしまう。それ以外のシナリオで人格関係のネタがエンディングで軽く流されていてもそれほど気にならなかったのに、真っ向から取り扱うと気になるというのはこれいかに。


結局のところ、これって最終シナリオのヒロイン小鳩が原因なんだと思うんですよ。
ぱねだくんたちは小鳩に深い思い入れを抱いているわけですけど、プレイヤーであるオレは違うじゃないですか。最終ルートに入ってようやく彼女のいろんな側面に触れるようになりますけど、他のヒロインたちと比して圧倒的に接触している時間が短い。
かの『神のみぞ知るセカイ』で落とし神様も言ってましたけど、接触回数と好感度は比例するんですよ!(ドーンという効果音付きで)
小鳩への思い入れがないとやっぱりラストでの盛り上がりがぜんぜん弱くなっちゃうんですよね。過去エピソードも明かされるのでさすがにそんなことはないですけど、一歩間違ったらお友達の吉川さんのほうがオレ的には攻略したかったくらいですもん(ぉぃ
トゥルーだ、トゥルーに違いないと思っていたせいもあって最終シナリオでかえって全体の構成面で評価が下がってしまった感があります。もったいないなぁ、要素要素はよくできてるのになぁ。
ちなみに先ほど引っ張ってきたVFBのインタビューによると本来はこのシナリオの〆は登場人物たち総出のゲリラライブだったらしく……ああ、そうしてくれればどんなにか良かったのに! と思わずにはいられませんですよ。まあそれやっちゃうとなおのことオレを含めてプレイヤーはトゥルーシナリオの印象を深めちゃうでしょうけど(笑)。ファンディスク的なものが出るなら全員が力を合わせて(好き勝手でもいいけど)何かやるというイベントは見たいですね。登場人物たちは基本好きなので。


なんかうだうだと最終シナリオのことを書いてしまいましたけど基本的にはとてもよくできているし楽しめました。
悶絶するほど萌えたヒロインがいないのは事実ですけど、男キャラ含めて出てくる人たちは大体気に入ってますし、会話テキストの面白さは相変わらず鉄板。アレキサンダーでのやり取りやフレイムバーズのバカどもとのやり取りはずーっと読んでいても飽きないんじゃないかと思ったくらい。よかった、雀孫が1回かぎりのフロックな子じゃなくて本当によかった……。
ある意味マイナスがあるとしたら一部イベント絵に信じられないくらいアレなのが混じっているという意味で、西又先生の絵が一番マイナスポイントなんじゃなかろうかというくらいには完成度高いです(ぉ
話題作ゆえ気になってる人はとっくに買ってるでしょうが、まだの人はぜひどうぞ。話の性質上なかなかコンシューマに移植しにくい話だと思いますしね(笑)。


以下おまけ。ヒロインごとの雑感。つきあってくださる方は「続きを読む」で。
*渡来明日香
猫かぶりプリンセスということになってるけどオトメな一面があったりで、実は割と本気でプリンセスなんじゃないかと思っていたりする明日香さん。オレ的には一番のお気に入り。七兆回出会ったら七兆回好きになるって凄いぜ!?
統合ルートでも「ぱねだくんには関心ないけど……」と言いつつちょっと顔が近づくとドギマギしてるところとかかわいいと思うのですよ。もしかすると彼女のルートの後日談よりもぱねだくんルートの後日談の方が見たいかも。


*玉泉日和子
「多摩いづみ」といい、「米寿」といいもう少しやりようがなかったのか王雀孫! と言いたい気もしますがキャラ的には割と好き。生真面目な娘がペース崩されて徐々に少女らしい素の顔を見せてくるのっていいよね!(あえてツンデレという言葉は使わずにお届けしております)
メイド服を見せてくるCGとHシーンでの目をつぶっているCGがアレすぎるけど、そこは大人力でスルーしておきます。正面カットは難しいのになんで描こうとするかな……(スルーできてない)


鳳鳴
雪村互換、以上。
という一言で済ませるのもあんまりなんですが、実際このCVということもあってなおのことそういう印象が強くなってしまったような気がします。雪村は一世代前のPCのネットワーク上の識別名が「KOMACHI」だったくらい好きだったのですが、なぜか鳴にはビビッと来ませんでしたよ。なんでですかねー、やっぱり幼なじみじゃないからですかねー。
ひとつ確実に言えるのはちょっとギャル風?な喋りが苦手なオレなのにも関わらず攻略対象に格上げ希望をしてしまうほどにコーダインが性格・見た目とも好みだったのがネックだったのでしょう。まあコーダインは攻略対象じゃないからこそ輝くキャラとも言えますし、和馬がそばにいる以上、隼人が踏み込むとも考えにくいわけですが……(^^;


*山科京
まさかガチで殺すエンディングがあるとは思いませんでした。やっぱりヤンデレの良さは自分にはよくわかりません。
若干うざいですけど元気な時の京さんは割とありだと思います。ええ、友達としてなら。
ハッピーエンドのはずなのにどこか不安の種が残るからヤンデレは嫌なんだよなぁ。


*羽田小鳩
彼女についてはおおよそ感想文でも書いてしまったのですが、いまいち魅力を感じきれずに終わってしまいました。
あらゆる意味でとてもいい娘なのは間違いないのですが……(^^; 次回作に期待(ファミ通風)。


【珍しくAA】俺たちに翼はない パーフェクトビジュアルブック
何回か引っ張っていたおれつばファンブック。3800円と値段も横綱級ですがボリュームもフルカラー300ページ超と横綱級。
西又先生書き下ろし25点とか全原画コメント付きとか気合い入りすぎな一作。
ファンブックにはちょっとうるさい方だと自認していますが、かなりハイレベルな1冊だと思われ。