おとぎ話の総本山ゆえのお話『魔法にかけられて』 ☆☆☆☆

もう上映も終わっていて来月にはDVDも出るという状況で感想を書くのも気が引けるのですが、これを書いておかないと先に進めないので今日は『魔法にかけられて』の感想を書かせていただきます。
結構CMを打っていた映画ですしご存知の方も多いでしょうが内容はこんな感じ。

「アンダレーシア」は夢と魔法の国。そこには人間と会話ができる動物が住み、嬉しいときには歌い踊る人々が暮らしていた。そこは永遠の愛が存在する平和な世界。
そんな世界に住む心優しいジゼル。いつか王子様に出会えるはずと信じていた彼女は、あるとき偶然からアンダレーシアの王子・エドワードと出会い、お互い運命を確信。またたく間に二人の婚姻が決定する。
だが、王国の誰もが二人の結婚を祝福していたわけではなかった。エドワードにかわって王国のトップとして君臨する彼の継母だけはそれを望んでいなかったのだ。自らの権力を守るため、彼女はジゼルを罠にはめ異世界に繋がる井戸の中へ落としてしまう。


――こうしてジゼルが辿り着いたのは現代のニューヨーク。
そこは動物が人間の言葉を話せず、誰も歌い踊ったりはせず、結婚さえも永遠に続く真実の愛情を証明するものではない世界。
自分がいた世界とは何もかもが逆のその世界で、ジゼルは離婚弁護士ロバートに出会うのだが……。

この後の展開はおおよそ予想が付くのではないかと思いますが、こっちの世界の常識を知らないジゼルが色々なトラブルを引き起こしたり、現代の常識に汚されていないがゆえに口にすることができる彼女の無垢な一言によって周りが救われたり……まあ事件が多々起こっていき、そんな中で「真実の愛なんてないんだよ」と冷めたことを言っていたロバートもジゼルに惹かれていって、というような非常にわかりやすい筋書きです(^^;


見に行く前はあまりにもスイーツ(笑)過ぎて自分には厳しいのではないかと思ってたんですが、見てみるとかなり楽しめました。
これはディズニー自らがディズニーであることを逆手に取った映画で、彼ら以外には誰もこれを作れないと思います。コナミが作った『パロディウスだ!』みたいなもんですね。冒頭のアニメーションシーンでは若々しく見えたジゼルが現実世界に来てみると30代で「王子様♪」とか言ってる痛い女になってる、なんてブラックな笑いをまさかディズニーがやるなんて誰が思うよ?
ドリームワークスが『シュレック』でやってもそれほどのインパクトはないと思うんですよね、やっぱり(笑)。
白雪姫に眠れる森の美女にと、色々なディズニー作品からエッセンスを持ってきて徹底したパロディをやってて好感が持てました。また、それを抜きにしてもミュージカル映画としてよくできていて作中の楽曲はどれも非常にレベルが高かったと思います。
スイーツ(笑)な人に受けるのはもちろんですけど、それだけに留まらないまともな娯楽作品ですよ。


これを見ていて自分が一番気に入ったのはジゼルとロバートがお互いへの愛情を明確に意識するシーン。
ジゼルが住んでいた世界はディズニー的な夢と魔法の国なので、「怒り」という概念が存在しません。誰もそんな感情を抱いたりはしないからです。事実、彼女が最初無自覚に色々トラブルを起こしたときにロバートは激怒するんですが、それを見てもジゼルはキョトンとしながら「どうしたの? なにか不幸なことでもあったの?」なんてセリフが出てくるくらい(おとぎ話にも「不幸」はあるんですよね、面白いことに)。
そのときに彼女はロバートから「僕は怒ってるんだよ、わからないのかい?」みたいなことを言われて「怒り」という概念に初めて触れるのですが、件のシーンはそれをうまく踏まえていたのが印象的でした。


ジゼルは「運命の王子様」であるエドワードが自分を迎えに来てくれると疑いもなく信じているわけですが、徐々にジゼルに惹かれているロバートとしてはそれが少し面白くありません。
彼はつい「本当に王子様が迎えに来るなんて思ってるのか? 自分の経験上、そんなこと絶対にないと思うけどね」というようなことを言ってしまいます。
それまでにも何度もそんなことを言われていたジゼルはそれを聞くや立ち上がり、こう言うのです。

「なんであなたはそんなことばっかり言うの? あなたはいつも“ノー”ばっかり! “ノー”“ノー”、わかってる? わたしは今……」
「わたしは今……」
「……そう、怒ってるの!」

正確な引用じゃないけど、こんなセリフだったと思います。
そして彼女はその怒りをロバートにぶつけるかのように、彼をポカポカと殴り、そして笑い出すのです。
「なんだか今すっごくスッキリした気分!」
そう言うジゼルの笑顔に引きつけられるようにロバートの顔が彼女に近づいていき、ジゼルも運命の王子様としかキスをしてはいけないはずなのにロバートを拒むわけでもなく……とこれ以上は興を削ぐのでやめておきますが、自分、このシーン見ながら「いやうまいな!」と膝を打ちましたね。
「怒り」を知らなかったおとぎ話の世界の住人だったジゼルが現実世界にしか存在しない「怒り」を知り、それを発散させる爽快さを知り、一目会っただけで相手がどんな人かも知らずに結ばれるはずだったエドワードよりも、何日も一緒に過ごして自分をイライラさせたりもするけれど一緒にいると楽しいロバートに恋していることに気付く。
彼女がおとぎ話の住人から現実世界に降りてきたことを見事にワンシーンで表現しているのではないかと。
正直このシーンまででもいいから見て欲しいなぁと思いますですよ。
(その後もいい意味でおとぎ話の逆サイドを描いてて面白い映画ですけど)


さて、映画の感想はこれくらいにして、本作を見に行ったとき自分はちょうどあるエロゲをやっていたのですが鑑賞後につくづくこう思ったものです。
「今日日のエロゲヒロインはディズニー映画よりもおとぎ話寄りだな」と。
なぜそう思ったのかについてはまた次回。……えっと、なるべく早めに更新します(^^;

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