読書感想文『ベン・トー』を読んで

 とにかく暇だった。正月三日、新年最初の映画『赤い糸』*1を見てしまった僕は新年二本目の映画である『劇場版BLEACH FADE TO BLACK 君の名を呼ぶ』*2までの時間を持て余していた(関係のないことだが、このタイトルは長すぎると思う)。そこで本屋で時間を潰していたのだが、その時買ったのがこの本『ベン・トー サバの味噌煮290円』だった。以前、マイミクが面白いと言っていたのを、そのふざけたタイトルゆえに覚えていたのだ。
 早速読んでみた。なるほど面白い。文章のテンポが良くすいすいと読んでいける。キャラクターも立っていて会話が楽しいし、半額弁当を巡ってバトルロワイヤルを繰り広げるという荒唐無稽な設定にちゃんとしたルールを与えて「もしかしたらあるかもしれない」と思わせるだけの説得力があるのも見事だと唸らされた。
 が、ふとここまで書いて自分の感想に疑問を抱いた。説得力があったのは本当にルールが用意されているからだろうか? それだけではこの物語を読んだときに僕が感じたリアリティを説明できない気がする。まるで自分が経験したかのようなリアリティを。
「……醜い≪豚≫どもめ」
 そう、槍水仙のこの台詞だ。
「……豚め」
 僕もいつだったかそう呟いて弁当コーナーに群がる人々を侮蔑していたのではなかったか。
かつて僕は近所のスーパーでバイトをしていた。そのスーパーでは夜9時半を過ぎると弁当の値引が行われるのだが、その時間帯には多くの社員は帰宅しているため値引はバイトの重要な仕事だった。週6日という今考えればどうかしている数の夜シフトを入れていた僕は必然的にほぼ毎日値引をしていた。この作品に出ていたら「メタボ王子」なんて呼ばれていたかもしれない。
 そんな自分だからわかるが、スーパーには実際にいるのだ。値引シールをせびる「豚」も、行儀の悪い真似はしない「犬」も、そして何かのルールに殉じるかのようにシールが張り終わるその瞬間までは距離を保って日配品コーナーを眺めている「狼」も。あの頃、自分は間違いなく戦場の中心に立っていた。もちろん物語とは違って殴り合いはなかったけれど。
 『ベン・トー』は紛れもなくフィクションだ。だが、そこに奇妙なリアリティを感じるのは偶然でも、ゲームのルールのせいでもなく、出てくる人々の中にどうしようもないほどのリアルが含まれているからなのだろう。*3もしかすると最近の不景気や所得の減少という社会への風刺も込められているのかもしれない。*4
 最後になるが、この感想文を書くにあたってもう一度読み返してみたらまた印象深い台詞が見つかった。
「俺はその販売方式を含めて半額弁当は最高の料理の一つだと思っている」
 なるほど、本当にそのとおりだ。僕は売る側だったから作中の主人公のように必死になって戦い、弁当をもぎ取ったわけではないけれど販売方式というか背景が大事だというのはとてもよくわかる。一緒にバイトをしていた女の子とお客さんの話やら店長にもらった余り物の弁当の話やらをしながら途中まで一緒に帰った後に食べる角煮丼と、口も聞いてもらえなくなった後に一人で帰って食べる角煮丼では味が違ったから。
 そんな思い出を胸に僕は今日も買いに行く。もう食べ飽きてしまった、デイリーヤマザキの弁当を。いつか僕にもまたあんな味の弁当を食べることができるのだろうか?*5 *6



挑戦してみるとわかるけどこういうエッセイみたいなのって難しいですね。元サイトの人は凄いわ。
ちなみに今さらではあるけど本が面白かったのは事実ですけど、それ相応に嘘や誇張も交えているのでそのつもりで。別に角煮丼は一人で食べたっておいしかったよ!(ぉぃ
あ、でも「犬」や「狼」っぽい人がいたり、自分がバイトしていた時に毎日半額シールをせびってくるおばちゃんのことを「豚」と内心で呼んでいたのは事実ですが(マテ
昔から自分の勤務態度にはいささか問題があったのだなぁとプチ反省しつつ今日はこの辺で。

*1:まさか2時間に満たない純愛映画で友人の自殺未遂&記憶喪失、友人のドラッグへの傾倒、友人の事故死を見るとは思わなかった

*2:個人的には去年の方が面白かった

*3:こういう書き方をすると先生方にはウケが良さそうな感じがする

*4:誤読と深読みは考察系サイトの華だぜ!

*5:将来への希望みたいなものを匂わせるのも読書感想文としてはありがちですよね

*6:ちなみにこの文章で400字詰め原稿用紙4枚分くらい。もうちょっと膨らませるべきだったかも(^^;